2月12日からシドニーのジャパンファウンデーションで開催される、日本の銭湯文化にまつわる展示会で、作品が展示される田中みずきさん。彼女は日本に残された3人の銭湯ペンキ絵師のひとりです。
ハイライト
- 2月12日から銭湯にまつわる展示会が開催
- 田中みずきさんは日本に残された3人の銭湯ペンキ絵師の1人
- 文化の継承のためには若者が参加しやすい環境を確立すること
日本の伝統文化のひとつである「銭湯」は、古くから地域の人々に憩いの場を提供してきました。その「銭湯」の歴史や文化、魅力について探る展示会『Steam Dreams: The Japanese Public Bathhouse』が2月12日からシドニーのジャパンファウンデーションで開催されます。
キュレーターの1人であるシモーン・ゴーランさんは、かつてから日本の入浴文化に興味があり、「特に銭湯の魅力は他にはない貴重なもの」と強く感じていたと言います。
「都市開発とともに減少の一途を辿る日本の銭湯文化に焦点を当てることは特に重要だと感じました」
姿を消しつつある日本の銭湯文化をより多くの人に知ってもらうために、展示会では銭湯のビジュアルやデザインの展示の他に、銭湯にまつわる映画上映やワークショップなども予定されています。
展示会のメインディスプレイを飾るのが、今回インタビューをさせていただいた銭湯ペンキ絵師の田中みずきさんです。
銭湯の壁一面に描かれた壮大な風景がペンキ絵と呼ばれ、それを専門的に描くのがペンキ絵師という職人。
日本では大正時代か見られるようになったペンキ絵師ですが、現在その伝統を引き継いているのは、38歳の田中さん、田中さんの師匠でもある76歳の中島盛夫さん、そして86歳で現役最長の丸山清人さんの3人のみとなっています。
大学の卒業論文テーマーのリサーチでペンキ絵を知るまでは、銭湯に訪れたことがなかったという田中さん。
初めて銭湯に訪れたのは冬。湯銭からどんどん上がる湯気が、ペンキ絵の雲と重なり、「まるで描かれた世界に自分が入っていくような不思議な感覚」だったと振り返り、そこからペンキ絵師の世界へとのめりこむように。
中島さんに弟子入りしてから、約8年の月日をかけてプロとなった田中さんは、初めは制作スピートに苦戦したと言います。銭湯の定休日である1日で、作品を完成させることが求められるペンキ絵師。「師匠はサラサラと描きかけていく」一方で、実際には壁が傷んでデコボコであったり、綺麗に描くことは想像以上に大変であったと語ります。
ペンキ絵は大まかに2-3年で描き替えるそうで、その変化を楽しむのも銭湯の醍醐味。
日本の象徴であり、また縁起物とされる富士山は、基本的に描かれるペンキ絵で、その構図や色味、下に描く地域の風景を変えることで、変化を楽しんでもらっているそうです。
逆に「落ちる」や「赤字」といった言葉が連想される夕焼けのイメージは避けたり、船を描くときはその向きが「出ていく」ことを連想させないよう、お店に向けて、中心的に描くなど、「縁起良く描く」ことを意識されています。
現在3人しかいない銭湯ペンキ絵師の現状については、銭湯のペンキ絵を描いて暮らしていける「経済的な仕組みを作る」こと、そして「安全性を確保すること」が二大テーマと語る田中さん。それを確立することにより「若い方が参加しやすいシステムを作りたい」と考えています。
海外での展示は初めてだという田中さんは、銭湯文化を知らないオーストラリア人には、都市によって変わる背景や、絵が描き替えられ、変わっていく姿など、そのあらゆる楽しみ方を通して、銭湯に興味を持ってもらい、日本に訪れたときには「銭湯を楽しんでもらえたら嬉しいです」と語りました。
キュレーターのゴーランさんも、今回の展示会を通じて、日本の奥深い銭湯文化を知るだけでなく、時代とともに姿を消していく「銭湯文化を守る重要性」についても考えるきっかけになってほしいと述べています。
ジャパンファウンデーション主催の『Steam Dreams: The Japanese Public Bathhouse』は2月12日から5月22日まで開催されます。またこの展示会い関連して、銭湯にまつわる映画が無料上映されるほか、子供を対象にしたタイルペインティングやスタンプメイキング・ワークショップも開催される予定ですので、詳しくはこちらをご覧ください。
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