今年2月に福岡国際センターで開催された「EVO Japan 2019」。EVOとはエボリューションチャンピオンシップシリーズの略で、23年の歴史があり、格闘ゲームに特化したeスポーツの年次大会です。
3日間にわたって開催された今年のEVO Japanには1万3,000人以上が参加し、ストリートファイターやブレイブルー(Blaz Blue)、鉄拳7などのゲームの大会が行われました。
パキスタンのラホーレ出身、23歳のアッシュ選手がEVO Japanの会場に到着したのは、鉄拳7の試合のわずか1時間前。2日間にわたる飛行機での移動を経て、空腹でのどが渇き、寝不足に襲われるなかでの快挙でした。試合は複数回行われますが、アッシュ選手は試合の合間に仮眠を取ってしのぎました。
EVOの歴史の中で、パキスタン人選手が優勝したのは初めてです。
アッシュ選手はその後、米ラスベガスで今月開かれたEVOチャンピオンシップでも優勝しています。

Arslan Ash competing in Evo Japan tournament 2019. Source: EVO Japan 2019, Executive Committee
日本までの長い道のり
アッシュ選手がEVO Japanに出場するまでの道のりは長いものでした。ゲームを始めたのは13歳のときで、小銭を持って家を抜け出してはゲームセンターに通っていました。国内の大会を次々に制し、プロになる自信を付けました。
アッシュ選手はEVO Japanに出場するため、首都イスラマバードにある日本の総領事館に出かけて渡航ビザを申請しますが、受け入れ側が書いたインビテーションレターが必要であるとして、申請書が返されてしまいます。アッシュ選手は自身のスポンサーを通じてレターの発行を依頼し、無事にビザが下りました。
日本までは乗り継ぎ便を予約しましたが、最初のタイに向かう飛行機に搭乗できませんでした。タイでの乗り継ぎ時間は21時間でしたが、タイに12時間以上滞在するには、パキスタンのパスポート保持者は別にトランジットビザが必要だったからです。
急きょ、パキスタン発、マレーシアと韓国を経由する日本行きの便を予約しました。しかしマレーシアで再び、韓国に入国するのにビザが必要であると指摘され、韓国便に搭乗できませんでした。結果的にマレーシアから日本までの直行便に乗りました。
移動の空き時間に済ませようと思っていたことが全くできず、成田に到着したアッシュ選手は混乱の中、会場のある福岡に向かう国内線に乗り遅れてしまいます。そのとき、試合開始まで4時間。「マレーシアで引き返すべきだった」と後悔しながら、ヘルプデスクに助けを求め、福岡に試合開始1時間前に着く国内線に乗ることができました。

Arslan Ash at Evo Japan 2019. Source: EVO Japan 2019, Executive Committee
欧米での大会出場にハードル
「両親は私がゲームの世界で生きていくことができるとは思っていませんでしたが、私の成功を喜んでいます。私も嬉しいです」とアッシュ選手はSBSウルドゥーに語りました。「今後も世界の大きな大会に出場して、勝ち続けていきたいと思います。パキスタンのプレイヤーは世界でも優れています」。
日本では、ビザの問題などで特に欧米などで開かれる世界大会に出場することが困難なアッシュ選手を日本に招待しようと、クラウドファンディングが行われ、開始6日目で目標額に到達。今年5月にはアッシュ選手を招いてゲームの対戦を行いました。