著者のピーター・メアーズ氏は、インサイド・ストーリー・マガジン誌の編集者として、長年オーストラリアの移民傾向を分析してきました。
メアーズ氏はSBSの委託を受け、一時的移民への移行が生み出す結果についてのリサーチを先ごろ完成させました。
一時的移民には、例えばオーストラリアで1年に270億ドルもの収益を上げる留学生市場など、利点ももちろんありますが、移民労働者の搾取という点で、付随して起こるコストもあるとメアーズ氏は指摘します。
そのひとつの例として挙げられたのは、2009年から2014年にかけて、メルボルン・クリケット・グラウンドの契約清掃員が不当に安い賃金を支払われていたという事例です。SBSがスクープしたこの事件は、その後フェアワーク・オンブズマンによる調査につながりました。
メアーズ氏は、こうしたスキャンダルは重大な問題を投げかけていると言います。
オーストラリアは永住・定住ではなく、移民を重要視せず搾取や酷使を受けやすい立場に置く、一時滞在ビザという形に移行してゆくのか。
「かつて移民は、この国に来てすぐに永住権や市民権を取り、他の人たちと同じ権利を持つオーストラリアの政治社会の正式なメンバーになりました。私たちは今、他の人たちと同等の権利を持たないたくさんの人々を抱えるというシナリオを作り出しています。投票も出来ず、政治家を代表として送ることも出来ず、ビザの状態のせいで職場でもっと弱い立場にも置かれる人たちが増えるというのは、社会的な結束と調和の歴史を誇りにしてきたわが国にとって、心配なことだと私は思います」
メアーズ氏は、留学生やワーキングホリデーメーカー、技術労働者などに対するビザの発給数は、永住ビザのおよそ3倍に上っており、一時的移民が永住者を凌駕していると話します。
政治的に大きな論議を呼んだサブクラス457ビザは廃止され、短期と中期の二つの期間で分けられたTemporary Skill Shortage ビザ、通称TSSビザが導入されました。この内、永住権取得への道があるのは中期TSSビザだけです。
メアーズ氏はこの改変により、雇用主が一時労働者を搾取する可能性が増えると確信しています。
「オーストラリアにぜひとどまりたいが、そのチャンスはほとんど無い、という状況を作り出すというのはつまり、例えばボスの気に入られようとあれこれ試みるといった状況を作り出しかねません。永住権への道を手に入れたくて、職場で波風を立てるようなことはしなくなるでしょう」
オーストラリア移民協会の代表を務めるリアーン・スティーブンス氏も、新しいTSSビザについて同じような不安を抱いています。
「永住権を取るために同じ雇用主の下に留まろうという人は、これまでよりおよそ3割長く留まらなければならなくなります。これまでの2年ではなく3年になり、我々の職員のリポートでも、劣悪な労働環境や搾取、安すぎる給料や長時間労働などを訴える人々の事例が上がっています。永住権がかかっているので、そういう事例を怖くて報告できないでいる人たちもいます」
アブル・リズヴィ氏は1995年から2007年まで移民省の高官を務め、退職時には副長官を務めました。
移民労働者の搾取は深刻な問題だとしながらも、リズヴィ氏は、搾取はむしろ経済全体に広がっていると話します。
「何も一時滞在者に限ったことではありません。もちろん一時滞在者により多く見られるでしょうが、この問題はもっと大きく、私が思うに、政府が直接、出来ればもっと労働組合に関わってもらいながら、この搾取の問題に取り組むべきだと思います。一時入国を阻止したり、減らしたりするのが搾取問題への正しい解決策だとは思えません」
ピーター・メアーズ氏は、一時滞在ビザの増加は、オーストラリアの移民受入数を減らすべきだと考える人々をなだめようという試みかもしれない、と話します。
「オーストラリアの一部には、強く声高な反移民感情が存在します。ワンネーション党やトニー・アボットの発言、また移民の数が多すぎるという意見などに見られるように。政治家の思惑がどうなのかはもちろん私には分かりませんが、こういう声に政治的に対応するひとつの方法は、永住移民の受入数を減らし、ほら、人をたくさん入れていませんよ、と言いながら、その反面、高齢者介護の職員不足のような、新たな労働市場の問題を解決するために、一時的移民を使うと言うやり方でしょうね」
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