規制フリーの「バブル」拡大戦略、豪州でも機能する?

感染のリスクを抑えながら、ロックダウンによる悪影響を軽減する方法です。

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Source: Shutterstock

コロナウイルスのパンデミックで「バブル」というコンセプトが注目されています。これは、同じ家に住む家族同士のように、マスクを着用したり、ソーシャルディスタンシングを行ったりしない、規制のないグループのことです。

厳しいロックダウンでは通常、このバブルは世帯が同じ人に限られますが、ニュージーランドや英国のように、バブルの範囲を世帯を超えて拡大するという試みを行っている国もあります。

ビクトリア州政府のダニエル・アンドリュース州首相は今週6日に、規制緩和に向けたロードマップ(行程表)を発表します。州政府のチーフメディカルオフィサー、ブレット・サットン教授がこのバブルのコンセプトを「積極的に検討」していることが分かり、バブル戦略がロードマップに盛り込まれるのかどうかが注目されています。

バブルの拡大ではまず、自分のいる世帯が規制なしで濃厚接触できるほかの人または世帯を決めます。誰でも何人でも良いわけではなく、感染のリスクを抑えるために、同じ地域に住む人から選び、そのバブルは決めた範囲の人たちだけしか参加できない排他的な集まりとなります。

これは、コロナウイルスの感染拡大リスクを抑えながら、社会的な交流へのニーズを満たそうとする試みです。バブル戦略が実現すれば、精神の影響を受けやすい人や孤立した人が、ほかの特定の人と交流することができ、パンデミックのストレスの軽減につながると考えられています。

もちろん感染が拡大するリスクは常にあり、各政府は思いやりをもって規制を継続することが必要です。

パンデミックは短距離走ではなくマラソンです。コロナウイルスに関するさまざな規制について、もしその内容が思いやりに基づいているものだと理解されるようになれば、長期にわたって規制を守ろうとする人々の気持ちも強まるかもしれません。

ニュージーランドの「バブル」

ビクトリア州の現在のロックダウンでは、このバブルは同じ世帯の人のみに限定されています。そしてパートナーなど親密な関係にある人同士だけが、お互いを訪問することを許されています。

このような環境はメンタルヘルスに大きな影響を与え、孤独感を強めます。パートナーなどがいない単身者や、家族構成などが複雑な人は不満を抱え続けることになります。

このバブルを拡大するという考えは、世帯が同じでなくても特定の人やグループに限って濃厚接触を許すことで、ロックダウンの悪影響を軽減しようとするものです。比較的新しい考え方で、2003年に発生したSARSのパンデミックでは導入されませんでした。

ニュージーランドはこの拡大バブル戦略を導入した最初の国です。レベル3のロックダウン中、同じ世帯の人に加えて、世帯が異なっていても家族であれば濃厚接触を許可しました。ロックダウンという厳しい環境下での、メンタルヘルスの悪化を防ぐための策でした。

またニュージーランドのバブル戦略はその温情的な側面に加えて、現代の複雑な社会構造を考えると現実的な対応策とも言えます。

社会的に、私たちが持つ重要なつながりは複雑化し、文化的にも多様化しています。家族という存在だけでも、ブレンディッドファミリー(以前のパートナーとの子ども、養子、生物学上の自分の子どもなどを持つカップル)や、義理の家族、パートナー、恋人そして親密な友人など、大切な人がすべて同じ世帯で生活しているわけではありません。

ウイルスバブルを拡大し自分の大切なつながりを維持することは、ロックダウンの可能性が続くなかで、コミュニティーに長期的な恩恵をもたらすことができるかもしれません。

バブル戦略は、6月に規制の緩和を始めた英国でも始まっています。単身世帯に対して、複数の人が暮らす1世帯とバブルを構成することが認められています。

感染リスクはどうなる?

社会的なつながりを保つ上で有効なバブル戦略ですが、コロナウイルスのように感染力の強いウイルスが相手だと常に感染の拡大リスクが付きまといます。バブル戦略は必ず、感染の拡大リスクを踏まえた上で実施されなければなりません。

もしバブル戦略をオーストラリアで導入するなら、まず、バブルを形成するための正式なプロセスが必要になります。また1つのバブルに参加できる人数も制限される必要があります。

バブルは決めた範囲内の人たちだけの集まりであるため、いったんバブルの関係をもった相手(世帯)を変えることは簡単にはできません。バブルの相手を変える必要があるときは、ほかのバブルへの感染の拡大を防ぐため、バブルを変える人には14日間の待機期間が必要になります。

バブルの相手を決めるプロセスでは、バブルをトラッキングするアプリが使えそうです。このアプリを通して、そのバブルに参加する人がその意思を登録します。バブル戦略ではまた、ホットスポットなど、それぞれの地域での感染レベルの違いも考慮する必要があります。

たとえば複数の世帯が参加するバブルで、そのメンバーの1人が感染ホットスポットに住んでいた場合、このバブルの残りのメンバーはたとえ感染レベルの低い地域に住んでいても、ウイルスへの感染リスクが高まります。バブルを介して、感染の多い地域から感染の少ない地域にウイルスが広がってしまう恐れがあります。

またこのリスクは、バブルのメンバーが感染リスクの高い職場で働いている、または感染リスクの高い職に就いている場合にも生じます。

私たちが疫学の分野で目指すことは、感染リスクを最大限抑えることです。しかし、パンデミックが長期化するなか、コミュニティーへの広範な感染リスクを高めることのない形で、思いやりのある対策を講じる必要が出てきています。

複数回のロックダウンを乗り切る力に

隔離生活は人を孤立させ、非協力的にさえすることがあります。限定された相手との交流を確保できるバブルは、一人暮らしの人や家族構成が複雑な人などに対して、苦境を乗り切るための力を与えるかもしれません。

将来のロックダウン計画にバブル戦略を盛り込むことは、数回にわたってロックダウンや感染ホットスポットの囲い込みなどが起こる長期的なパンデミックを乗り切るうえで、私たちを支える力となるかもしれません。

また、厳しい規制の中にバブルという思いやりを加えることで、全体的に規制を守ろうとする住民の気持ちが強まるかもしれません。

しっかりとした思いやりのある対策を確立すれば、わざと複数のバブルに参加して制度の抜け穴を利用しようとする人を抑えることにもつながると思います。

適切なチェック機能を持った思いやりのあるアプローチを採用することで、住民が政府や当局に対して、パンデミックを一緒に乗り切るために自分たちを安全に導いていく存在だと、信頼を持ってもらうことにもつながります。

*筆者のMary-Louise McLaws氏は世界保健機関(WHO)のEmergencies programme ad-hoc COVID-19 Infection Prevention and Control Guidance Development Groupのメンバーです。

 


オーストラリアでは、ほかの人との距離を1.5メートル以上保たなければなりません。集会についての制限は住んでいる州の決まりを確認してください

風邪やインフルエンザのような症状がある場合は自宅にとどまり、医師またはコロナウイルス・ヘルスインフォーメーション・ホットライン(電話番号1800 020 080)に電話で問い合わせて、検査を受けましょう

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Published

Updated

By Mary-Louise McLaws
Presented by Junko Hirabayashi
Source: The Conversation

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