オーストラリアでは、男性のおよそ5人に1人が生涯のうちに前立腺がんと診断されるといわれています。前立腺の役割や自身のリスク、利用できる検査の選択肢について知ることは、早期発見や適切な治療につながります。今回の「オーストラリア・エクスプレインド」では、前立腺がんの基礎知識をはじめ、PSA検査、治療法、そして利用できるサポートについて紹介します。
Key Points
- 皮膚がんを除くと、前立腺がんはオーストラリアで最も多く診断されているがんです。
- 前立腺がんそのものに特有の症状はありません。ただし、前立腺が良性に肥大した場合、尿が出にくくなるなどの症状が現れることがあります。
- 前立腺がんの発見には、前立腺特異抗原(PSA)の値を測定する血液検査が広く用いられており、50歳以上の男性に検査を検討することが推奨されています。

前立腺とは? なぜ問題が起こるのか
男性の前立腺はクルミほどの大きさで、骨盤内にあります。
「前立腺は膀胱のすぐ下にあり、男性が尿を出すときに通る管を取り囲んでいます。また、精子と混ざって精液となる液体を作り、精子を守り、栄養を与える働きがあります。つまり、前立腺は射精において重要な役割を担っています。」
こう説明するのは、泌尿器科医で、メルボルンのピーター・マッカラムがんセンターで泌尿生殖器腫瘍科のディレクターを務めるデクラン・マーフィー教授です。
男性は年齢を重ねるにつれて、一般的に前立腺が大きくなります。この良性の肥大によって、尿を体外へ運ぶ尿道が圧迫され、排尿に変化が現れることがあります。
夜中に何度も起きて、トイレに行くこともあると、オーストラリア前立腺センターの泌尿器科ナースプラクティショナー、ヘレン・クロウさんは話します。
「これは良性の肥大で、がんではなく、加齢によるものです。しかし、前立腺が大きくなると、膀胱から尿を十分に排出できなくなることがあります。こうした問題が起き始めて、男性は初めて自分に前立腺があることを意識する場合が多いのです。」
また、前立腺に炎症や感染が起こることもあります。これは「前立腺炎」と呼ばれ、陰茎と肛門の間にある会陰部に不快感や痛みを引き起こします。
「かなりつらい症状になることもあります。不快感で眠れない、座ったり運動したりすると非常につらいと訴え、かかりつけ医を受診する男性もいます。」
そして前立腺に、がんが発生することもあります。通常、前立腺がんには症状がありませんが、オーストラリアの男性に最も多いがんの一つです。
「前立腺がんは、それほど深刻ではなく、経過観察で済む男性もいます。一方で、非常に重症化し、深刻な症状を引き起こしたり、死に至ったりする場合もあります。」(マーフィー教授)

前立腺がんのリスク要因と、受けられる検査
前立腺がんは、オーストラリアで最も多く診断されるがんの一つです。加齢や前立腺がんの家族歴、特定の遺伝子変異によって、発症リスクが高まることがあります。
「前立腺がんは、世界的にも大きな問題です。最近発表された論文では、2020年から2040年の間に、世界の前立腺がんの発症数が2倍になると予測されています。」(マーフィー教授)
皮膚がんを除くと、前立腺がんはオーストラリアの男性に最も多く診断されるがんです。オーストラリアでは、男性が80歳までに前立腺がんと診断される確率は、およそ5人に1人です。Professor Declan Murphy
クロウさんによると、前立腺がんの原因は完全には解明されていません。
PSA(前立腺特異抗原)検査は、血液を採取して調べる検査で、症状が現れる前に前立腺がんの兆候を発見するのに役立ちます。現在、オーストラリアには、前立腺がんを対象とした全国的な検診制度はありません。そのため、PSA検査によって得られる可能性のあるメリットとリスクについて、GPと相談したうえで、検査を受けるかどうかを判断することが勧められています。
男性は50歳ごろから、定期的なPSA検査が自分に適しているかどうか、GPに相談することができます。リスクが高い男性は、より早い段階で相談するよう勧められる場合があります。
「前立腺がんが心配な場合は、症状が出るまで待たないでください。」(マーフィー教授は)
「前立腺がんと診断されるリスクが特に高い人もいます。例えば、家族に前立腺がんになった人が複数いる場合や、遺伝子変異がある場合です。そのような人には、45歳ごろから検査について相談することを勧めています。」

前立腺がんには、どのような治療法がある?
前立腺がんの対応は、診断時のがんの進行度や悪性度によって異なります。
「前立腺がんと診断されても、必ず治療を受けなければならないわけではありません。」
「実際、現在のオーストラリアのように、診断時にがんが前立腺内にとどまっている患者が90%を超える国では、経過観察が適切な対応となるケースも多くあります。」
積極的監視療法では、定期的な検査や診察を受けながら、がんの状態を見守ります。がんが進行している兆候が見られた場合には、治療が勧められることがあります。
悪性度の高い前立腺がんの場合は、手術や放射線療法、化学療法、ホルモン療法などが治療の選択肢となります。
「現在では、前立腺がんを抑えるために、さまざまな方法が用いられています。ここ10年ほどで、たとえがんがすでにほかの部位に転移していても、患者が選べる治療法は飛躍的に増えました。」とマーフィー教授は説明します。
治療の結果は、がんの種類や進行度などによって異なりますが、早期に診断された前立腺がんは、一般的に生存率が非常に高いとされています。

前立腺がんと診断された当事者の経験
ダニー・モイルさんは65歳のとき、PSA値が徐々に上昇していたため、GPから泌尿器科医を紹介されました。
「さらに検査を受けた結果、医師から前立腺全摘除術を勧められました。」
前立腺を摘出する手術が必要だと告げられ、モイルさんは大きなショックを受けたといいます。
「自分の生殖器官の重要な一部を失うことになり、性生活などにも大きな影響が出るのだと考えると、事の重大さを実感しました。」
手術後、モイルさんのPSA値は再び上昇し始めました。
「これは、がんがまだどこかに残っているということです。もちろん、前立腺は摘出されているので、そこにはありません。前立腺がん細胞は、体のどこにあってもPSAを作り続けます。そのため、PSA値を調べることで、体内のどこかにがん細胞が残っている可能性が分かるのです。」
その後5年間、モイルさんの担当医はPSA値の経過観察を続けました。その後、放射線腫瘍医から、7週間の放射線療法と6カ月間のホルモン療法を勧められました。
「昨年の数カ月間は、決して楽なものではありませんでした。治療後は、再び定期的にPSA検査を受けるようになりました。昨年末に受けた直近の検査では、PSAが検出されなかったので、状況は良い方向に向かっています。」
クロウさんによると、前立腺がんと診断された男性は、ショックや先行きへの不安など、さまざまな感情を抱くことがあります。
「ショックを受けるのはごく一般的なことです。今感じていることは、まったく自然な反応だとお伝えしています。情報を得て、今後の治療計画が分かれば、少しずつ気持ちも楽になっていきます。」
前立腺がん患者が受けられるサポート
前立腺がんと診断された人は、さまざまなサポートを受けることができます。専門の看護師に質問や相談をしたり、必要なケアを受けたりすることができるほか、治療や継続的な経過観察についても支援してもらえます。
モイルさんにとって、家族の支えはとても重要でした。
「何よりも大きな支えとなったのは妻でした。また、担当してくれた医師や専門医も、治療のそれぞれの段階で親身になって支えてくれました。」
その後、モイルさんは地元のクイーンズランド州バガラで、支援グループを立ち上げました。
「このグループのおかげで、大きく変わりました。同じ経験をしている男性たちと話し、それぞれが抱える問題を共有し、支え合えるのは素晴らしいことです。これまで招いたゲストスピーカーからも、とても有意義な話を聞くことができました。」





