国立公園や自然保護区、海洋保護区、先住民保護区は、それぞれ異なる自然環境を守るために設けられており、適用されるルールも異なります。では、先住民保護区はほかの保護地域と何が違うのでしょうか。また、訪問してもよい場所かどうかは、どのように確認すればよいのでしょうか。
Key Points
- 保護地域とは、重要な土地や水域、動植物、文化的価値を守るために指定された場所です。
- 先住民保護区は、伝統的所有者が管理しており、多くの場合、政府機関や自然保護団体と連携して運営されています。
- 保護地域を訪れる際は、事前にルールを確認することが大切です。場所によっては、一部の活動が制限されている場合があります。
国立公園や自然保護区は主に陸上の自然環境を保護するためのもので、海洋保護区は海の生態系を守ることを目的としています。一方、先住民保護(Indigenous Protected Areas)は、陸地や海を含む「カントリー」を保護する区域で、伝統的所有者が自主的に管理しています。
こうした保護地域はすべて、ファースト・ネーションズの人々が数万年にわたり守り、受け継いできた「カントリー」の上に存在しています。
先住民保護区(IPA)とは?
先住民保護区(Indigenous Protected Area、IPA) とは、伝統的所有者が自然保護のために自主的に管理することに同意した陸地や海域の「カントリー」を指します。
IPA制度は、オーストラリア政府とファースト・ネーションズの団体が共同で設計し、1997年に始まりました。この制度は、伝統的所有者が生物多様性や文化的価値を守りながら、カントリーに対する文化的な慣習や責任を継続できるよう支援することを目的としています。
現在オーストラリアには、
- 96ヵ所の先住民保護区(IPA)
- 約1億1,300万ヘクタールの陸地におよぶIPA
- 約930万ヘクタールの海域(シー・カントリー)のIPAがあります。
IPAは、国内の陸地のおよそ4分の1を保護する国立保護区システムの55%以上を占めています。
フェデレーション大学の研究者で、トラルウルウィの女性でもあるエマ・リー教授(アンティー・エマ) は、ファースト・ネーションズの人々が何千年にもわたりオーストラリアの土地や水域を守ってきたと説明します。
「私たちは昔からカントリーを守るための仕組みを持っていました。必要以上に採らないこと、そして次の世代のために、より良い状態でカントリーを残すこと。一見シンプルな考え方ですが、これらは何万年もの間、何百世代にもわたって私たちの人々を導いてきた大切な原則なのです。」
先住民保護区はほかの保護区とどう違う?
先住民保護区の大きな特徴は、伝統的所有者が連邦政府との自主的な合意のもとで設立・管理する保護区であることです。また、IPAの設立を提案できるのは、伝統的所有者自身に限られています。
一方、国立公園や自然保護区、海洋保護区などは、主に州・テリトリー政府が管理責任を担っています。
また、農家や牧場経営者などの民間地主も、土地の所有権を維持したまま自主的な自然保護協定を結ぶことができ、こうした土地も国立保護区システムの一部として認められる場合があります。
IPAとほかの保護区とのもう一つの重要な違いは、文化が管理の中心に据えられていることです。IPAでは、人々、文化、カントリーが互いに深く結びついているという考え方が重視されています。
アンティー・エマはIPAについて、単に自然を囲って人の手を入れないという考え方とは異なると説明します。伝統的所有者がアクセスを認めた場所では、訪問者がカントリーについて学ぶ機会も提供されています。
IPAでは、先住民の伝統的な土地管理の知識や慣習も大切にされています。その一例が、山火事のリスクを抑えるために古くから行われてきた伝統的な火入れです。
「私たちは、こうした火入れの技術が非常に古くから受け継がれてきたものだと知ってもらう機会を提供しています。皆さんが伝統的な火入れの跡を目にするとき、それは何千年にもわたって土地を守ってきた文化の営みを見ているのです。」
なお、IPAは国立公園や海洋保護区後など、ほかの保護区と区域が重なることもあります。その場合は、伝統的所有者が、その地域について法的権利や管理責任を持つ機関や団体と協力して管理を行います。
先住民保護区はどのように管理されている?
それぞれの先住民保護区には、伝統的所有者が地域の文化的・環境的価値をどのように守るかを定めた管理計画があります。
IPAの設立は、次の2つの段階を経て行われます。
- 協議:伝統的所有者が中心となり、先住民コミュニティや土地所有者、関係者、協力団体などと協議を行います。その上で、カントリーをどのように守っていくかについて目標や方針を定めます。
- 正式指定: 伝統的所有者が、その地域をIPAとして指定するかどうかを決定します。その後、オーストラリア政府に管理計画の承認とIPAとしての正式認定を求めることができます。
なお、IPAに指定されても、その土地や海域の所有権や先住民土地権(ネイティブタイトル)、既存の法的権利が変更されることはありません。
IPAでは主に次のような活動が行われています。
- 文化的・スピリチャル的に重要な場所の保護
- 伝統的な火入れの実施
- 絶滅危惧種のモニタリング
- 生息環境の回復
- 生物多様性調査
- 海洋ごみの除去
- 外来雑草や野生化した外来動物の管理
- 観光客や来訪者の受け入れ・管理
- 若い世代への伝統的知識の継承

なぜ先住民保護区はオーストラリアの環境や文化にとって重要?
オーストラリア自然保護財団(Australian Conservation Foundation、ACF)の自然保護活動家ジェス・エイブラハムズ氏は、保護区は自然環境を健全な状態に保つための最も効果的な手段だと説明します。
「国立公園や保護区はオーストラリアに存在するさまざまな生態系や自然環境を守る役割を果たしています。将来の世代がオーストラリア本来の自然を目にできるよう、多様な生態系を保護することが重要です。」
オーストラリアには世界のほかの地域では見られない固有の動植物が数多く生息しており、植物や哺乳類の80%以上、鳥類の45%が固有種とされています。
一方で、オーストラリアの生物多様性を取り巻く状況は厳しさを増しており、絶滅のおそれのある種の数も増え続けています。
クイーンズランド大学の保全科学者、ジェームズ・ワトソン教授は、保護区は絶滅危惧種や脆弱な生態系を守るうえで重要な役割を果たしていると指摘します。
「保護区は開発から守られた土地や海域です。保護区では、森林や草地を切り開く開発行為や、自然環境を損なう活動が制限されています。そのため、野生生物にとっての『重要な場所』となっているのです。」

先住民保護区を訪れるときに気を付けたいこと
オーストラリア自然保護財団(ACF)のジェス・エイブラハムズ氏は、自然環境を守るために私たち一人ひとりができることはたくさんあると話します。
- 夜間はペット、特に猫を屋内で飼う
- プラスチックごみが川や海に流れ込まないよう、正しくリサイクルする
- 地域の公園や自然保護区、国立公園の保全活動に参加する
- 環境問題への懸念を地元選出の議員に伝える
保護区について理解を深めることで、自然を楽しみながら、オーストラリアと自然との特別な関係についても学ぶことができます。
「保護区が私たち人類の未来を支えるものだと考えるなら、誰もが自宅の庭やアパートのベランダ、小さな公共スペースなどに、自分なりの小さな保護区をつくることができます。」(アンティーエマ)
「私たちは、人として正しい行いを心がけるだけでいいのです。保護区はそのことを思い出させてくれますし、先住民保護区はそのメッセージをより強く伝えてくれるのです。」
旅行を計画する際のポイント:
- 公式ウェブサイトや地図で、その地域の管理者や一般の立ち入りが認められているかを確認する。政府は、国内の先住民保護区の位置を確認できる地図を公開しています。
- 伝統的所有者の団体やIPA管理団体、ランドカウンシル、公園管理当局などに、立ち入り条件や許可の必要性、閉鎖区域の有無を確認する。
- 保護区を示す看板が設置されている場合もあるが、ないこともあるため、看板だけに頼らない。
そして忘れてはならないのは、私たちが歩く道や訪れるビーチ、探検する森の一つひとつが、より大きなものの一部だということです。
それは、オーストラリアの豊かな自然と、今も受け継がれている先住民文化の遺産なのです。





