オーストラリアの条約とは? 先住民が伝えたいこと

First Peoples Assembly Gather In Gardens Of Parliament In Victoria

First Peoples Assembly of Victoria pose for a group portrait, the indigenous body of Victoria negotiating the statewide treaty gather in Legislative Council Chamber of Victoria for their first sitting after elections on July 26, 2023 in Melbourne, Australia. Credit: Tamati Smith/Getty Images

オーストラリアには、世界で最も古くから続く文化が今も受け継がれています。しかし、先住民を正式に認める「国としての条約」がない、数少ない国のひとつでもあります。これは土地や資源の共有、意思決定の権限について、包括的な合意がこれまで一度も結ばれていないことを意味し、多くの人はこれを「いまだに解決されていない課題」としています。条約とは?土地の権利やネイティブ・タイトルとはどう違うのでしょうか?


Key Points
  • 条約とは、政府とアボリジナルおよびトレス海峡諸島の人々との間で結ばれる正式な合意のことです。
  • 多くの先住民の人々は、「条約」を「正義と尊重、より良い関係へ向けた一歩」と考えています。
  • 全国的な条約が結ばれれば、アボリジナルとトレス海峡諸島民の権利を国全体で認める、共通の枠組みが生まれることになります。
    条約とは、政府とアボリジナルおよびトレス海峡諸島の人々との間で結ばれる正式な合意のことです。この条約には、どのように協力していくか、先住民の権利や歴史をどう認めるか、そしてこれからの未来をどうつくっていくかが示されます。

    条約を理解することは、オーストラリアという国の歩みをより深く知ることにつながります。それは法律や政治だけの話ではなく、尊重と真実、そしてこの国を故郷とするすべての人のために、より公正な社会をつくることにつながります。

    アボリジナルの土地権、ネイティブタイトル、条約の違いとは?

    これらはよく同じ文脈で取り上げられますが、それぞれ意味が異なります。
    • 土地権(Land rights):政府が制定する法律で、特定の土地をアボリジナルやトレス海峡諸島のコミュニティに返還するものです。こうした土地は通常、コミュニティを代表して支援するランドカウンシルが管理します。
    • ネイティブタイトル(Native title): 一部のファースト・ネーションズの人々が、伝統的な法律や慣習に基づき、今も土地や水域に対する権利を持っていることを法的に認める制度です。
    • 条約(Treaty): 政府とファースト・ネーションズの人々との間で交わされる正式な合意のこと。ニュージーランドやカナダではすでに条約がありますが、オーストラリアではまだ全国的な条約はありません。
    これらの取り組みは、ファースト・ネーションズの人々に正義と承認、そして自己決定権をもたらすことを目的としています。
    Australians Observe Australia Day Holiday
    Protesters march from Parliament House to Flinders Street Station during the Treaty Before Voice Invasion Day Protest on January 26, 2023, in Melbourne, Australia. (Photo by Alexi J. Rosenfeld/Getty Images) Credit: Alexi J. Rosenfeld/Getty Images

    オーストラリアにおける「条約」とは?

    条約とは、二つの集団の間で結ばれる、法的拘束力のある正式な合意のことです。
    例えばニュージーランドでは、政府とマオリの人々がワイタンギ条約を結びました。カナダでも、先住民族との間に多くの条約が存在します。

    しかしオーストラリアでは、イギリスによる植民地化の際に、先住民との全国的な条約は結ばれませんでした。

    イギリス人はアボリジナルの土地に最初に入植したとき、その土地を「テラ・ヌリウス(誰のものでもない土地)」と宣言し、アボリジナルの人々と交渉する必要はないと考えたのです。

    このように条約が結ばれなかった結果、土地や資源の共有、意思決定の権限についての包括的な合意は、これまで一度も存在していません。

    多くの人はこれを「いまだに解決されていない課題」と捉えています。
    オーストラリアで進められている条約の議論は、過去の歴史を正しく認め、先住民の権利を守り、そしてアボリジナルとトレス海峡諸島の人々が意思決定の場で実際に声を持てるようにすることを目的としています。

    法律の専門家ハリー・ホブズ博士はこう説明します。

    「理想的には、条約はアボリジナルおよびトレス海峡諸島のコミュニティと、州政府および連邦政府との間で結ばれるべきです。というのも、オーストラリアの憲法では、権限が連邦議会と州議会の間で分かれているからです。」

    アボリジナルとトレス海峡諸島の人々は、共に歩める未来を築き、互いの成功を分かち合い、現代オーストラリアにおける先住民文化を認め、祝うことを望んでいます。

    最終的に、オーストラリアにおける「条約」とは、過去に起きたことを正直に語り合い、これからの新しい道を共に描いていくことを意味しています。
    A man and two women standing near each other and smiling, in front of a wall that has a mural of people marching with signs displaying First Nations messages.
    (from left to right) Former Queensland Truth-Telling and Healing Inquiry chairperson Joshua Creamer, NSW Treaty Commissioner Naomi Moran and co-chair of the First Peoples' Assembly of Victoria Ngarra Murray. Credit: NITV / The Point

    なぜ条約は大切?

    多くの先住民の人々にとって、条約は「正義」「尊重」、そして「より良い関係」へとつながる大切な一歩です。

    ビクトリア州で条約交渉の中心的な役割を担うグンディッジャマラ族出身の、ルーベン・バーグ氏は、州や連邦レベルで政府と先住民の関係を新たに築くことができる条約は非常に重要だと語ります。

    条約が重要とされる理由は、次のような点にあります。
    • アボリジナルとトレス海峡諸島の人々を、オーストラリアの「最初の人々(First Peoples)」として正式に認めることができる。
    • オーストラリアの歴史について、真実を語り合う機会をつくることができる。
    • 土地、健康、教育、経済、文化などの課題について、真のパートナーシップを築くことができる。
    ウィルディ族出身で弁護士のトニー・マカヴォイ氏は、こう述べています。

    「自分たちの人生を自分たちで決め、必要なサービスを自分たちで提供できるとき、私たちは最も健康で、強く、精神的にも文化的にも豊かな状態になります。もし条約がそうした結果をもたらすのなら、それはこの国全体にとっても良いことです。」

    条約に含まれる内容は?

    条約の形や内容はさまざまで、幅広い分野をカバーすることができます。主に次のような項目が含まれることがあります。
    • 先住民の主権や、地域社会に関する意思決定を行う権利を認めること。
    • 土地・水・資源の利用・管理・保護に関する合意。
    • 言語や文化遺産、伝統を守り、継承していくための取り組み。
    • 健康・教育・住宅などの分野への資金援助や支援。
    ガナイ族、グンディッジャマラ族、ジャブ・ウーリン族にルーツを持ち、ビクトリア州選出のリディア・ソープ上院議員は、こうした取り組みは地域のコミュニティが主導すべきだと語ります。
    ローカルコミュニティのレベルで、氏族や各民族が代表として参加することが必要です。実際に変化を起こせるのは、そうした地域のコミュニティなのです。
    Senator Lidia Thorpe
    SENATE QUESTION TIME
    Independent Senator Lidia Thorpe during Question Time in the Senate chamber at Parliament House in Canberra. Source: AAP / MICK TSIKAS/AAPIMAGE

    オーストラリアにおける条約のこれから

    オーストラリアでは、州によって条約の進み具合が異なります。ビクトリア州やクイーンズランド州ではすでに独自の条約づくりが進められており、ニューサウスウェールズ州などでは「自分たちにとっての条約とは何か」を話し合う段階にあります。それぞれの取り組みは地域のニーズに合わせて進められており、州や地域によって形が異なるのが特徴です。

    現在、最も先を行くのはビクトリア州です。2025年9月、ビクトリア州政府と「ファースト・ピープルズ・アセンブリー・オブ・ビクトリア(ビクトリア先住民代表議会)」は、オーストラリアで初めてとなる州全体の条約について「原則合意」に達しました。これは長年にわたる交渉と地域コミュニティの協議の成果であり、ビクトリア州の取り組みは国内でも模範的なプロセスとして広く評価されています。

    全国的な条約と州ごとの条約は異なる点があります。

    全国的な条約は、オーストラリア全体でアボリジナルとトレス海峡諸島の人々の権利を認める、国単位の合意を目指すものです。一方、州やテリトリーの条約は、それぞれの地域の課題や優先事項に焦点を当ててつくられます。多くの専門家や支援者は、真の変化を実現するためには、全国的な条約と州ごとの条約の両方が必要だと考えています。

    条約は、先住民だけの問題ではありません。それは、すべての人にとっての「認識」「尊重」、そして「公正さ」に関わるものです。

    条約を結ぶことは、すべての声と経験が大切にされる未来を築くことにつながります。これからも、条約の新しい章は、地域のコミュニティ、政府、そしてオーストラリアの未来を共に形づくろうとするすべての人々によって書き続けられていきます。

    条約のプロセスを理解することは、この国の歴史をより深く知り、共により公正な未来を築くための大切な一歩なのです。

    ※この記事は、2025年7月に放送されたSBSテレビ番組『Living Black – The Case for a Treaty』の内容を一部引用しています。番組の全編は SBS On Demand で視聴できます。

    Stream free On Demand

    Thumbnail of The Case For A Treaty

    The Case For A Treaty

    episode Living Black • 
    News And Current Affairs • 
    34m
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    34m
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