Key Points
- アレンジ婚と強制結婚の大きな違いは「本人の同意」があるかどうかです。
- 強制結婚は2013年の「犯罪関連法改正法」により、連邦犯罪と定められています。
- 強制結婚は、年齢や性別、文化や宗教を問わず、誰にでも起こり得ます。
この記事では強制結婚について取り上げています。内容によっては不快に感じたり、心に負担を与える場合があります。
強制結婚は海外だけの問題だと思われがちですが、実際にはオーストラリアでも起きています。
オーストラリア連邦警察(AFP)は2023〜24年の1年間、91件の強制結婚の通報に対応しました。これはその年の人身取引事件のおよそ4分の1にあたります。
アレンジ婚と強制結婚の違いとは?
一部の文化では、家族が関わる「アレンジ婚(取り決めによる結婚)」が一般的ですが、最大の違いは「本人の同意」があるかどうかです。
アレンジ婚では、家族が関与する場合もありますが、最終的に本人同士が合意します。
一方、強制結婚は、一方または双方が自分の意思で同意していない状況で行われます。脅迫や強要、だましによる場合や、16歳未満・十分な判断能力を持たない人の場合も含まれます。
オーストラリア赤十字の移民支援プログラム顧問、クズダイ・ナタリクワ氏によると、結婚を進める過程で、脅しや強要、操作やだましがあれば、それはもはやアレンジ婚ではなく強制結婚であると説明します
「この違いを強調することが大切です。実際、強制結婚を経験した人でさえ、当時はアレンジ婚だと信じ込んでしまうケースがあるのです。」
ナタリクワ氏は、強制結婚は、年齢や性別、文化や宗教を問わず、誰にでも起こり得ると説明します。
強制結婚は世界的な課題とされており、オーストラリアにおいても重大な人道問題として認識されています。
「オーストラリアでは、強制結婚は『現代の奴隷制』、あるいはそれに類する行為とみなされています。特定の文化や宗教、民族、国籍、年齢、性別に限られた問題ではなく、誰にでも起こり得ることです。つまり、あらゆる文化を超えて存在する問題なのです。」(ナタリクワ氏)

Sakina Muhammad Jan arrives for sentencing at the County Court of Victoria in Melbourne, Monday, July 29, 2024. Jan is being sentenced for forcing her daughter to marry a man who then murdered her. (AAP Image/Diego Fedele) Source: AAP / DIEGO FEDELE/AAPIMAGE
オーストラリアで強制結婚をするとどうなる?
オーストラリアでは、強制結婚は家庭内の問題にとどまらず、犯罪とみなされます。強制結婚は、2013年の『犯罪関連法改正法』により連邦犯罪とされています。
この法律は、オーストラリア国内で起きた事件だけでなく、個人が海外に連れて行かれたケースにも適用されると、「ライフ・ウィズアウト・バリアズ」で 移民・強制結婚プログラムを担当するパノス・マスーリス氏は説明します。
「強制結婚は連邦犯罪として扱われるため、オーストラリア連邦警察(AFP)が調査や監視を行っています。また、この犯罪は法律で認められた結婚だけでなく、文化的・宗教的な結婚式や登録されたパートナー関係にも適用されます。」
強制結婚が起きる背景
強制結婚は特に14~18歳の若い女性や少女に影響を与えることが多いとされます。ナタリクワ氏によると、その背景や理由は個人や状況によってさまざまです。
「強制結婚は、家族や地域社会の期待に応え、伝統的な性別の役割を守るために行われることがあります。また、家族や地域の結びつきを強めるため、あるいは伝統を継続するために行われることもあります。私たちが見てきたケースでは、親や強制結婚を進める人々は『若者のためになる』と信じて行動している場合がありますが、実際には害を与えることになります。彼らは自分たちが最善を選ぶ役割だと考えているのです。」
メルボルンを拠点に活動する社会運動家でフェミニストのハナ・アサフィリ氏は、2017年にヴィクトリア州女性名誉ロールに選ばれ、社会変革や女性のエンパワメントへの貢献が評価されました。2019年にはオーストラリア勲章(OAM)も授与されています。
アサフィリ氏は2024年に初の著書『Hana: The Audacity to be Free』を出版しました。本では、戦争で揺れるレバノンとオーストラリアでの幼少期、望まない結婚から逃れた経験、そして20歳で自分を立て直した過程をつづっています。
「当時の私はまだ若く、私の結婚は強制ではなかったものの、まるでそれしか選択肢がないように感じました。どこまでが強要で、どこまでが状況の結果なのかを考えました。15歳の時、自由や尊厳、危険から自分を守る方法として結婚が選択肢に思えたのです。こうした背景があって、アレンジ婚が一つの選択肢になったのだと思います。」
オーストラリアで強制結婚に直面する人への支援
強制結婚のリスクにある人には、相談や支援を受ける方法があります。
「友人や家族、同僚など、身近な人が強制結婚のリスクにある、または経験している場合、プライバシーが守られた形で相談したいときは、赤十字に電話(1-800-113-015)かメール(national_stpp@redcross.org.au)で連絡できます。」
さらに政府は2025年1月から、新たな強制結婚専門支援プログラム(FMSSP)を導入しました。これにより強制結婚を防ぎ、早期介入のサポートが受けられるようになりました。本人が直接申し込むことも可能で、電話(1804 032 13)やウェブサイトから連絡できます。
ナタリクワ氏は、危険を感じたらすぐに警察(000)に連絡するよう呼びかけています。

The Australian Federal Police responded to 91 reports of forced marriages in 2023-24, making up nearly a quarter of all human trafficking cases that year. Source: iStockphoto / dragana991/Getty Images/iStockphoto
警察に報告したくない場合、サルベーション・アーミーを通じて支援を受けることができます。ナタリクワ氏によると、支援の対象となるかはプログラムを通じて判断されます。相談は、電話(1300 473 560)やウェブサイトから可能です。
また、マイブルースカイは、強制結婚に関する情報や、法的・移民に関するアドバイスを提供する全国サービスです。電話(02 9514 8115)、SMS(0481 070 844)、メール(help@mybluesky.org.au)で連絡できます。
「マイブルースカイはアンチ・スレイバリー・オーストラリアによって運営されており、利用は無料で、相談は秘密厳守です。本人だけでなく、地域の人や心配している人もウェブサイトを通じて利用できます。電話やメール、SMSでも連絡が可能です。」(ナタリクワ氏)
強制結婚を防ぐためにコミュニティができること
強制結婚を防ぎ、早期に介入して支援につなげるには、兆候を見抜くことが重要です。
人身取引対策の一環として、オーストラリア連邦警察(AFP)が主導するオーストラリア児童搾取対策センター(ACCCE)は、学校などのコミュニティに対し、子どもが結婚を強いられている兆候に注意するよう呼びかけています。オーストラリアでは、強制結婚が最も報告の多い人身取引犯罪となっています。

In some cultures, arranged marriages are common, but the key difference from forced marriages is consent. (Photo by Lynsey Addario/Getty Images Reportage) Credit: Lynsey Addario/Getty Images
強制結婚のよくある兆候
- 兄姉が若くして学校をやめたり、早く結婚したり、早期結婚について心配の声をあげたことがある
- 家や外出先で家族やコミュニティのメンバーから強く管理されている(監視される、常に付き添われる、金銭や生活・教育・職業の決定に制限がある)
- 通信手段が監視・制限されている
- 家族旅行や海外渡航について不安を示す
- 約束された結婚や婚約に応じなかった場合の影響を心配している
- 家族やコミュニティの期待を満たさない場合の身体的・心理的暴力を心配している
社会運動家のアサフィリ氏は、「どの文化や宗教、社会でも、誰かを強制的に結婚させることは決して許されない」と強調、そういった状況にある女性は、支援を求め、オーストラリアで利用できるリソースを活用するよう呼びかけています。
「最も良い結婚は、本人の自立した判断と十分な情報に基づいた合意の上で成り立つものです。」
もしあなたや身近な人が家庭内暴力やドメスティックバイオレンスに影響を受けている場合は、以下に連絡できます:
緊急の場合は000にお電話ください。
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